「自宅練習の時に手の形などは直してあげた方がいいでしょうか」…とのご質問も多くいただいており、お子さんの手について今日は更にもう少し踏み込んだことを書かせていただこうと思います。
私個人としては、実際にピアノを前にして親御さんにやっていただくことはそんなに無いと思っています。習いたての頃からあまり手のことをうるさくいうと、まだ筋肉が育っていないお子さんにとって、形だけ真似してもそれは偽物になりかねない…というか、ほぼ不可能。口でごちゃごちゃ言うのはできるだけ控えて、とにかくじゃんじゃん楽しく弾いてもらって、その代わり、体が力んでいかないようあちこち無言で触って、近い将来リラックスした体になるよう楽な方楽な方へと導いています。体がリラックスすると必然的に腕が重たくなってくるので指先に負荷がかかりはじめる。そのうち、だんだんと丈夫な指先を作る準備を始めてくれるのです。勿論その後、しっかりと指先で立つことができるようなプロセスを踏んでいくことが重要です。導入期はごちゃごちゃ難しいことは言わずリラックスした体(姿勢)だけに重点を置いているのも、その後のアプローチの道筋がしっかりとできていてこそなのですが…。
ピアノを弾く手というのは、「指の付け根がふっくらアーチ状になっている甲から、雫が落ちるように指が下方向へ自然に枝垂れている」のが理想です。が、それはあくまで、楽な方へと力が開放された故の賜物。正しいフォームを手に入れた方は、一時が万事、自分の体から遠ざかる方向に力が働いているのです。一つ前のブログで、習いたてのお子さんが手指を丸くしようとすると、指先を猫の手のように力で曲げてしまうお話をしましたが、このように、放つ方向であるべき手の形が、伝え方によってはお子さん達に誤解して伝わってしまう。様々なプロセスをご存知ない方々が導こうと思っても、真の部分まで伝えきれず、結果的には”素晴らしい音を出すことができる手”とは似ても似つかない手が出来上がってしまう危険も孕んでいると思います。
正しいフォームを身につけている方が、肩や腕、肘、手首を脱力しているのにも関わらず指先でしっかりと立っていられるのは何故でしょうか。指自身でしっかり倒立できるだけの”筋肉”が育っている・やじろべいのように立っていられるバランスが身についている・脱力した体だけが出すことのできる”響き”を知っている……など、様々な事柄が絡み合って関係しあってはじめて立っていられるのです。逆に言うと、それらを知らない手はいくら形だけ真似してみても、指本来の力で立っているわけではないということ。それはまるで、立ち上がれない赤ちゃんが歩行器に入って歩くのと同じで、自分では立てないけれど歩行器に助けてもらえば立てる。自分では歩けないけれど歩行器に入れば歩ける…指で立つ代わりに、腕や肘に吊り上げてもらって立っている……これを毎日何ヶ月も続けていたらどうなるでしょう。歩行器に入っている以上、丈夫に育つべき足腰は弱いまま。いつまでたっても赤ちゃんは自分の足で立ち上がろうとはしないでしょう。
では実際に、赤ちゃんに歩行器の力を借りず自身の足で立ってもらう為には何からはじめたら良いか。導入期の5本の指を一本ずつやっと動かして弾くような段階では、指先や付け根など細かな部分の難しいことは置いておいて、”肩”や”肘”など大きな関節からアプローチしてあげるとわかりやすいのではと思います。弾いてる最中に肩が上がってきたら、言葉もなく優しくただ”トントントントン”と突っついて下げてあげる。肘が張って固まってきたらブラブラゆらゆら揺すって抜いてあげる。先生の手の甲の上にお子さんの手をのせてあげて腕をダランと預けてもらって、トランポリンのように鍵盤の上をジャンプさせてあげたり、実際に脱力された腕というのはどのくらい重いものか、先生がピアノを弾いている時の腕を持ちあげてもらったり。反対にお子さんの腕を持ってあげて「○○ちゃんは絶対に力入れないでね」と、持ってもらうがまま重さを預けてもらって、座ったまま動かせる範囲あちこち動かしてあげたり(大抵重みを預けることができず自分の肘や腕で吊り上げてキープしてしまいますが)。脱力した重い腕と、脱力しきっていない腕の重さを比べてもらったり……。そのような肘や腕の力を抜くことを、まずはゲーム感覚で根気よくやってあげるのはどうでしょうか。
以後、勿論どこかのタイミングで指先や指の付け根のアプローチもしていかなければなりません。が、大きな関節が力んだままでは、それを促してみたところで本当の意味での習得は不可能だと思います。自然なフォームを手に入れるために…と無闇に脱力してみても、”支えられるだけの筋肉”があってこそ。鍛えるにも、”力みのない自然な重さ(脱力)”が加わってこそ。鍛えるにも脱力するにも、育てる順番があり、何より、体を放つ方向へと導くことを同時にしていってこそだと思います。また、私がお子さん達の手や体を触ってあげている時というのは、表面的な手の形を作ってあげてるわけではなく、むしろその奥のこと……筋肉の突っ張り方や、筋肉の動き方、支え(体幹)の具合、パルス(音楽の流れを感じる鼓動の周期のようなもの)まで、様々な体の奥の部分を感じ取りながら手や体を触っていることがほとんどです。このように、とても複雑で繊細な問題が絡んでいる様々な事を、親御さんに導いていただくには難しいように思います。
ピアノ上達のために正しいフォームを身につけることは必要不可欠です。が、導入期の頃は固まっていて当たり前。出来なくて当たり前。それを無理に形だけ真似させようとせず、難しい説明もせず、とにかくただ優しく触れて抜く方向へと促してあげる。無言で黙って触ってあげて、いつの間にか楽な体を覚えてもらう「実戦刷り込み作戦!」が良いように思います。導入期でやってあげるべきことは、手の形のことばかり言ってウンザリされるより、まずとにかく心をほぐし、体をほぐし、寛大な心で無限の可能性を信じてあげる事。お子さん達に「いつか素晴らしく上手に弾ける日が来る!弾きたい!」と夢をもたせてあげることが大切だと思います。




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