子は写し鏡…ピアノ本番での心の中

小さなお子さんの心は、すぐ近くにいる大人の写し鏡です。すぐ近くにいる人がいつも笑顔でピアノと関わっていたら、子供達も自然とピアノへ興味を持ち、練習への抵抗も徐々になくなっていきます。でももし、すぐ隣にいる人がいつもガミガミいらいらしていたら?……。

皆さんは「ミラーニューロン」という言葉を聞いたことがありますか?大抵の動物は、親や仲間など他者の行為を模倣して生きる術を覚えていくとされていますが、中でも、高等な脳を持つ霊長類の一部の生き物は(ヒトも)、行為を模倣するだけでなく、その行為の意味や行為の奥の意図までをも理解する処理能力を持っていると言われています。そしてその能力は、動物的感覚が色濃い小さなお子さんの方が優っているのだそうです。つまり小さなお子さんは、身近な大人達の行動をミラーのように模倣し、そして、大人達の”心のうち”をも感じ取っているということです。投げられた”心のボール”がポジティブものならば子供達のモチベーションも上向きになり、投げられた”心のボール”がネガティブなものならモチベーションは下がる……。よく耳にするのは、「そもそもあなたが”やりたい”と言ったのでしょう!だったらサボらないでしっかりなりなさいよ!」というセリフ……。しかし、子供にしてみたら嘘をついたわけでも投げ出したわけでもないのです。ただただ先を見通す力が育っていないだけ。何事においても”やる気”が持続できる子は、やらなかった事を責められた記憶より、やってみたい!という気持ちを褒めてもらった記憶の方が圧倒的に印象強く残っているのだそうです。

ピアノの本番は、全てが生、Live、一発勝負です。Live中は立ち止まって考えることも、消しゴムで消すこともできません。それだけにどんな小さなステージであっても、人前で演奏を披露するという行為は相当な集中力と強い精神力が必要です。子供達がピアノに向かうとき、心に何を思い浮かべているでしょうか。食べ物の曲を弾いてるなら、美味しいご馳走を思い出す子、美しい景色を思い出す子、作品について家族で楽しく調べた事柄を思い出す子、沢山誉められた事を思い出す子。興味深いのは、いつもお家や教室で厳しく言われている子の頭の中です。この子達は皆一様に、「間違えないようにしないと」や、「間違えたらお母さんなんて思うかなぁ〜」など、一瞬ネガティブな事が頭をよぎっているのです。これは、能力に蓋をしているのと同じ。「そのような事は思い浮かべないように」と言ったところで思い浮かんでしまうものは仕方ない…。それもこれも全ては心の習慣なのです。いざ曲に入れば忘れてしまうのかもしれませんが、それでもこのスタートラインの違いはかなりなものなのです。そして、この心が本当に本当に厄介で、小さな頃は深刻な状況でなくても、年齢と共に少しずつ何かしらの傷が深くなっていってしまう場合もあるのです。

勿論、時には厳しい事を言わなければならない場面もありますよね。そんな時、イライラの反動でつい発っしてしまったような言葉ではなく、威圧的なものなどでもなく、責めたり、結果を突きつけたり、プレッシャーを与えるような言葉は絶対に避けなければなりません。大人達の口から発せられる言葉は、ぜひ愛溢れる、未来ある一言であって欲しいです。大人のネガティブな”心のボール”の投げかけのせいで、伸びるべき才能が芽を出せずにいるとするなら、本当に悲しいです。この事は親御さん達だけでなく、コンクールが低年齢化している昨今、私たち指導者も胸に手を当てて、真剣に真摯に向き合うべき事だと思います。

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