芸術の時間が流れているのです

鍵盤をグーやパーで楽しんでいた小さな子達が、少しずつ指の自由がきくようになって、楽譜に書いてある事もだんだんできるようになって、そこに自分らしさも加わっていって、最後には自分の人生においてピアノが唯一無二の存在になってくれるまで、なんだかんだ10年はかかると思います。ピアノを始めて間もない方達は10年というと気が遠くなるかもしれませんが、年月をかけないと手に入れられないからこそ、それを手に入れた子達は、皆”ピアノ”という存在が尊くて仕方ないものになってくれているのだと思います。

五感を目いっぱい使って遊んでいた私の子供時代とは違い、現代の子どもたちは、どうしたって肌で直接感じる体験が少ないように思います。そんな時代に、あえて毎日芸術に向き合うことは本当に尊い事だと思います。手っ取り早く直線距離で進めばスピーディーだけれど、こんな時代だからこそ、心を込めて寄り道をして端折らず丁寧に進んでいきたいと思っています。

ずっと先みんな色々な道に進むだろうけど、どこへ行っても、コツコツ積み重ねた音楽体験を生かして”ここぞ!”という場面で、ポジティブな心で創意工夫に溢れた力を発揮してくれたら嬉しいです。

もしその中から、音楽に夢を持つ子が出てきて、ゆくゆくは受験やコンクールという急行列車に乗らなければならなくなった時、一旦は辛いことも沢山あるけれど、目指すものは”芸術”だということをいつの時も忘れないで欲しいと思います。そして、目指すたった一つの音を紡ぎ出す喜びと、たった一つの音を見つける労力をいとわない子になってくれたらなぁと思います。

人は千差万別。音楽も千差万別。喜びも悩みも千差万別。できない日々が続いても、感じ、考え、諦めず手を動かし続けて欲しいです。皆さんの目の前にあるのはただのおたまじゃくしの羅列なんかではなく、”心を持った人間”が創ったエネルギーの塊なのですから、心を総動員して向き合ってくれたら嬉しいです。

日々のつたない練習の中にも”芸術の時間”が流れているということを、どうか忘れませんように。

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