音読みについて④読譜の持久力

教室を卒業してピアノの先生になった方々のために書き始めた”音読み”シリーズ、ご質問にお答えする形で書いていたら、思ったより長くなってしまいました><。お付き合いくださっています皆様、本当にありがとうございます。

生き生きとした演奏ができるようになるために、早い段階で”脳”が音読みから開放されて、自由に表現することに専念できたら……。それには、まずは音読みそのもののスキルをあげる事が大切です。ここまでのブログでは「小さな頃に、新しい楽譜の中の音符をとにかく沢山読むこと」をご紹介しました。では、具体的にはどの様に進めていけばよいのでしょうか……。

まず心得ておかなければならないのが、単純に、音符の数が増えていけば読譜は大変になっていくという事です。そんな当たり前のこととお思いでしょうが、これが意外にも、本人の持久力以上の長い曲を与えられてしまっている方……かなりの確率でお目にかかります。大人の頭では、簡単な音符ばかりが並んでいるのだから、少々長くても根気よくゆっくり読んでこれば、最後まで音は並ぶだろう…と思います。ところが、音読みの脳の経験値というのは、大人が考えるほどそんなに甘いものではありません。

 実は、子供達が一度に読める音符の数というのは、ある程度決まっているのです。それは、その子がそれまでに読んだ”新しい音符の総数”、それと、”一度に読んだことのある音符の数”に比例しています。いくら一つ一つの音符が優しいからといって、その数の音符を一度に読んだ経験のない子にとっては、沢山の音符を一度に読むのはとても高いハードルなのです。ドレミを覚えて→2音ひと息で弾けるようになって→3音ひと息で弾けるようになって、やがてフレーズがひと息で弾けるようになって、4小節…8小節…16小節…と、脳を休めることなく一息の流れの中で弾く音符の数を増やしていく……読譜の力は、単音をスラスラ読めるからといって一足飛びに身につくものではなく、このように、徐々に音の数を増やしていってはじめて、”読譜の持久力”は養われていくのです。譜読みをして来ない生徒さんに向かって、安易に”この子は根気が無い子だ”などど片付けてしまわないよう><「読譜の持久力」そのものを育てるには、指導者側も相当な根気がいるのです

 時々、コンクールではとても立派な曲を演奏されているのに、日常レッスンの中で同レベルの曲の譜読みを宿題に出すと、とても1週間では両手で弾いてこられないという方がいらっしゃいます。例えば、ブルグミュラーの「すなおな心」は全部で30小節248音あるのですが、私がこの曲を宿題に出すとしたら、それまでに、30小節の音を読むためのスタミナをどんなふうに養ってきたかをはかります。1週間で両手で弾いてこられない曲というのは、その子にとって難しすぎるのだと思います。そのような場合は、両手で弾いてこられるレベルの曲を弾いてきてもらって、どんどん丸にしてあげる。丸がもらえれば子供は喜びますから、嬉しいことはまたやってくる…‥このサイクルを作ることが肝心で、その子にとって少しばかり簡単でも、とにかく新しく読む音符の玉数を増やすことが何より大切です。ブルグミュラーに入る頃までに、前回の写真にあるテキストを全てやったとして、教室の皆さんは同時に曲集やポリフォニーのテキストなども併用しているので、だいたいそこまでにざっくりと約3万〜4万の音符の玉を読むことになるでしょうか。音読みの経験値としては充分ですから、どの子もブルグミュラーを弾く頃には、脳は”音符を読むこと”にしばられず”生き生きとした演奏の為に使う”ことができているように思います。

また時々お見かけするのが、読む力と弾く力のバランスがチグハグになってしまっている方です。手的にはなんとか弾いているけれど”楽譜は自力では読めない”というのは、その先その子がどんな風になっていくか…想像は容易いです。そのような場合は、近い将来その子本来の力が十二分に発揮できるよう、譜読みスキルをどのテキストでどんな風に進めていくか、たとえ行きつ戻りつを繰り返すことになったとしても、絶対に妥協せず慎重に見極め育ててあげなければならないと思います。なぜなら”読譜力”はその先、楽譜の奥の文法を読み取る大切な力となっていき楽譜の文法を知ることは、演奏家としての素養そのものだからです。楽譜の文法を知ってこそその先の自由な表現が生まれるのです。私達がこれからやろうとしている”生き生きとした心が震えるほどの表現”は、設計図があって成り立つことを絶対に忘れてはいけません

今回も長いブログをお読みくださりありがとうございます。このシリーズも残すところあと一回となりました。最後の回では、沢山のご質問を頂いております「カードを読むこと」について書かせていただきたいと思います。

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