この時期、学生さん達の中には人生の岐路に立たされている人たちもいます。一層の音楽の学びを目指して次のステージに向け頑張っている人。学生生活には一旦ピリオドをうって音楽の世界で学んだことを社会に生かそうとしている人。ヨーロッパに希望を抱いて羽ばたく準備をしている人……。皆さん切磋琢磨しながら一緒に音楽を志してきましたが、次のステップに行く前に、今置かれている環境での各々最後のステージで何が出来るか、今一度”本物の芸術”について、そしてそれを実現するためにやらなければならないことを真剣に考えてみて欲しいと思います。
芸術とは、感じたこと表現したいことを誰かに向けて伝えたい!という気持ちから生まれます。創り出す人とそれを鑑賞する人の両方の心が響きあい色んな形で動いていく「心と心のキャッチボール」です。一般的にはそのキャッチボール、弾き手と聴き手の間に生まれると思われているのですが、実はそれだけでなく、聴衆に発表するもっと前、作曲家と弾き手との間に本当に濃密なキャッチボールの時間があるのです。それは真摯に楽譜に向き合った者だけが得られる至福の時間。特に学生さんには、その尊い時間こそ大切にして欲しいです。創意工夫溢れる本番演奏のために、作曲者の言葉(楽譜)を一字一句見逃さず、その奥に隠れた想い・夢・決意をもっともっと知ろうとしてください。そうして、偉大な先人が残してくれた深い言葉をしっかり受け止めて、その言葉を表現するためにはどの手法が最適かとことん考え探して、それを実現させるための鍛錬を積んでください。そして最も大切なこと…その時間の中で自身の心がどれくらいどんな風に動いているか…もっともっと自分自身の心の動きに興味を持って欲しいです。
どの子も長い年月ここまでほんとうに本当によく頑張ってきました。音楽学生になった頃はあんなに未知だった社会の中での自分の在り方が、そろそろ朧げでも見えていることと思います。ラストスパート“創意工夫溢れる演奏”のために心を込めて作品づくりに没頭して欲しいと思います。
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