心躍るマスターレッスン

先週の月曜、マスターコースの高・大・院生が、ピアニストの兼重稔宏先生のレッスンを受ける機会をいただきました。

先生には、長女がドイツ留学中から並々ならぬお世話になっており、特に長女がはじめて踏んだ地ライプツィヒでレッスンして頂いた日々は、今の長女の音楽人としての生き方の基盤となっています。帰国なさってからは、東京藝大、京都市立芸大、名古屋音楽大学で指導されながらヨーロッパや全国各地で精力的に演奏活動をなさっていらっしゃいます。そんなお忙しい先生に今回ご無理をいってレッスンをお願いしたところ、笑顔でお引き受けくださり、三重への貴重な帰省中だったにも関わらずお時間をつくってくださいました。

教室のマスターコース生といっても様々なレベルの子がいるのですが、先生は瞬時に各々の問題点を見極め、レベルに合った視点で丁寧にアドバイスくださいました。根本的な座り方、重みをかける時どの辺りをイメージして重みをかけるとよいのか、ペダルについて、テンポについて、構成について……。先生のレッスンは、アカデミックでありながら実に芸術的で、その内容からは、これまで先生がどこで何を学ばれていらっしゃったか、経験の重みを窺い知ることのできる素晴らしいレッスンでした。

以前、東京文化会館で行われたリサイタルに伺った際、哲学書のようなベートーヴェンにすっかり心を奪われました。この時演奏なさったのは、2022年にCDリリースもされているディアベッリ変奏曲で、練り尽くされた演奏は本当に知的で、重厚で、エネルギーに満ち溢れていて…時に踊り出したくなるような軽やかさと…かと思えば、会場隅々にまで染み渡る弱音の温かさがただただ静かに心に寄り添ってくれたり……正に音楽が生きてそこにある事をまざまざと見せつけられる演奏会でした。音楽を学ぶ学生は絶対にこの、兼重先生のディアベッリ変奏曲CDを聴いた方がいい!と思えるくらい、アカデミックさと自由な芸術性を併せ持った素晴らしいベートーヴェンです。レッスンも全く同じで、厳格でありユーモラスであり…先生の音楽はいつだって身も心も自由でイマジネーションに溢れているのに、その様な先生の豊かな音楽の幅も全ては、”楽譜”という確固たるものの先に…それを再現する為の裏打ちされたテクニックの先になければならない…ということを実感させてくれるものでした。

長女がよく言っているのですが、「先生の音楽に触れていると、ピアノを学ぶということは、心からの探究心を持って積み重ねるということ。それにはどうしたって長い長い年月がかかっちゃって下手したらものすごく辛いものになりがちだけれど、先生に出会ってからは、練習そのものがこんなに心躍るものなのか…と自分でもびっくりするくらい。練習中もずっとワクワクするんだよ♪」と。

今回のレッスンは、夏休み中の生徒さんたちにとって本当に良い刺激となりました。個人的にはとにかく体。やっぱり体。体と音、体とフレーズ……生徒さんは勿論、私自身も先生の音楽をしっかりと咀嚼して、生徒さん達の明日に繋がるよう真摯に努力を続けていきたいと思っています。貴重なお時間を本当にありがとうございました。

追伸

兼重稔宏先生はここからも日本全国様々な演奏会を控えていらっしゃいますが、近いところでは9/8(日)に、三重県菰野町のピアノ歴史館にてチェロの笹沼樹さんとのベートーヴェン・デュオコンサートをされます。ピアノの博物館と言えば浜松ばかりが有名ですが、菰野町ピアノ歴史館も実に興味深い展示がなされているそうで、私たちも楽しみに伺う予定です。菰野町は名古屋から1時間弱。稔宏先生のベートーヴェンにすぐ間近で触れることのできる良い機会です。ご興味ある方はぜひ三重まで足をお運びになってはいかがでしょうか。

菰野ピアノ歴史館
菰野ピアノ歴史館は展示している写真でしか見たことのなったピアノや、初めて見るようなピアノについて、すべて間近に見たり、実際に触れることができます。ベートベンやショパンが演奏した時代の本物の音色を聴くことができます。それぞれに個性的なピアノの音色の違いを体感できます。当館では、歴史的に価値の高いピアノを誰でも自由に演奏す...

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