ピアノ自宅練習”親御さんとやる場合”③

仕事でばたばしているうちに、レッスン室前のモッコウバラが満開になっていました。この時期モッコウバラのおかげで、あまりお話しする機会のない道ゆくご近所さんとも会話が弾み、何かとご縁を繋いでくれています。そんなゴールデンウィーク……今日は、親御さんのサポートのお話の最終回です。

お子さんの音楽的感覚は純白で、どんなものでも、何でもスポンジの様にたちまち吸収します。良くも悪くも、毎日側で見聴きしている方の手の運び、指先の感覚、音の質、体、表情…全てそっくりその通りの音楽が出来上がると思っていただいて良いと思います。その中でも、最も難しく厄介なのが”体”です。

真のピアノ表現をするためには体の事にまで着目しないわにはいきません。精一杯の演奏表現するために体がひとりでに動いたとして、それが楽譜の文法(…のようなもの)に対して理にかなっていないものは聴いていてどこか不自然に感じます。今自分はどの時代の音楽を演奏しているのか、何拍子の曲を弾いているのか、何拍目を弾いているのか…。スラーはどんなふうに括られているのか、2音の間についているのか、3音括ってあるのか、それともショパンのように長いスラーなのか…それによってフレーズの山はどこにくるのか…手の甲はどんなふうにアップ・ダウンさせるのか…。もっと言えば、手や腕だけの問題ではなく、その時体の中はどんな風になっているのか。腹筋は?モモの裏側は?横隔膜のあたりは?背中は?……。演奏中の筋肉は、皆さんが思っている以上に、リアルタイムで音に反映しているのです。

このメカニズムはとても口で説明できるようなものでなく、やはり小さな頃から、誰かその事をよく知っている大人の傍で、手取り足取り繰り返し体感していただくほかないのです。このような”感覚的なこと”を、レッスンの中で体感していただく時間より、もしも親御さんのフィルターを通して見聴きする時間の方が遥かに長いとしたら……親御さんが優れたピアニストでない限り、それは危険も孕んでいると言うことをご承知おき頂きたいです。

お子さんは、理屈ではなく感覚で感じ取るところが実に大きいです。皆さんからみたら体の中なんて決して見えないとお思いでしょうが(私たちには透け透けに見えていますが)、いえいえ、お子さんは驚くほど多くの事を感じ取っているのです。いつも間近で聴いている音、目に入ってくる姿勢、表面的には見えないけれど体の中のうねり…筋肉の弛緩・緊張‥全てをそのまま感じとっていると思っていただいよいと思います。

そう考えると、親御さんにはどのように関わっていただくのがよいか…日々真剣に考えております。特に、コンクールや進学を目指していらっしゃる方は、日常の親御さんの応援なくしては成り立ちません。サポートをしてくださっている親御さんも我が子のためと思って全身全霊でサポートくださっているのですから、そのせっかくのサポートが、お子さんの数年後を迷いのトンネルに導いてしまうことのないよう、また、何より二人三脚の日々が親も子も苦しい時間になってしまわないよう、精一杯フォローさせていただきたいです。どうぞ1人で悩まれず、なんでもご相談いただければと思います。私たちは、人生を豊かにするために音楽をやっているのですから。

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