単音が読めなければ勿論何も始まらないですから、多くの先生方がそこに沢山の時間をかけるのは理解できます。ですが、とにかく単音読みの段階で多くの時間やエネルギーを費やしすぎず、音読みも楽典も、あくまでフレーズの中で…楽譜の中で定着させてあげたいものですね。
紙の上で単音読みの問題が解けても、問題集の中で和声的短音階が書けても、それらを楽譜の中でどう捉えていくか…。音楽は、単音やフレーズをぶつ切りで読んでそれらを繋ぎ合わせたら完成するようなものではなく、全てに意味がありドラマがあります。それがたった1音だけだとしても、感情は留まらず心は動き出すのです。このような感覚は、ワークやテキストを順番にただ進めても育つものではなく、それらをいちいち楽譜の中で結びつけてあげて、西洋音楽の正しいイントネーションで抑揚たっぷり歌ってあげたり、拍感豊かな指揮で導いてあげたり、イマジネーションを沸き起こさせるようなお話をしてあげたり……そのような、生きた音楽を体感してこそ育まれると思っています。ですから私の教室では、単音読みのためのフラッシュカードや音読みの剥ぎ取りプリントなどを積極的に使うことはありません。万一それらに取り組む時は、十分に生きた音楽を取り入れバランスを考えるようにしています。ワークについても、毎日毎日プリントばかり黙々とやったり、音読みのタイムを測ったりというような使い方にならないよう、あくまでサポート的な目的に留め使っています。それは”芸術脳として音を読む”という感覚を育てたいからです。(詳しくは、ここまでのブログ”音読みについて①〜④”をお読みください)
小さなお子さんの右脳を活性化させる為に発案された”フラッシュカード”は、記憶力を鍛える目的でお受験用の幼児教室から広まったようですが、そのメカニズムは「考えることを止める」ということ。あえて子供達に考える余地を与えないほどの速度でめくることで「理性のブロックを外し、大量の映像を覚えさせる」ということがなされているようです。が、その時の脳は完全に”受動脳”になっているそうです。余計なことを考えていると大量に覚えられないので、あえて思考が働かないようにしてしまうわけです。しかし、そのような脳の回路は、時に、私たちが育てたいと思っている脳(思考力)とは真逆の方向へと導きかねないのでは…と、危惧さえ覚えるのです。近い将来、楽譜の中の求められている音を導き出すためには、あらゆる角度から色々な事を見つめて、創意工夫を持ってじっくり時間をかけて音楽を練り上げることが大切になります。時には、幾通りもの答えを導き出す事を求められる場合もあり、お決まりの答えを一つだけ出して終わりというものではありません。
多くのお教室の多くの生徒さんは、趣味でピアノを楽しんで、たとえ小学生の頃コンクールなどに挑戦してある程度ピアノを極めたとしても、仕事にはしない…という方がほとんどだと思います。ですが、もしその中に将来”専門の道”に進みたい!と思ってる子が出てきたら、私たち指導者は、その子たちが小さかった頃、一体どんな感覚を育ててあげられたら良かったのでしょうか…。あえて過去形で書いたのは、実際、専門の道を志して10代になってからお預かりする生徒さん達の多くが、いざ音楽の奥の奥を学ぶ段になって、自分でも気づかないうちに、いつの間にか自分が”受動的思考”になってしまっていることに気づき、悩み、もがき、本当に苦しんでいるのです。それを途中から改革していく事はほぼ不可能で、結局皆さん全て振り出しに戻って、本物の音楽を探る努力を一からなさっていらっしゃるのです。
これは何も音楽専門に進む方だけでなく、全ての人に言えることだと思います。音楽の現場に限らず、おそらく日本の教育全体がこの”受動的タイプの脳”を生み出しているのかもしれません。ピアノ教室の業界も、芸術の感覚を育てるメソッドよりも、近年では知育的なメソッドの方に大きく舵を切ってしまっているように思います。なぜなら、指導する側はその方が楽だからです。でも私たちは、目に見えないことを…心が震えるほどの感動を散々味わってきたのではないですか?ブラームスの奥深さに震え、ベートーヴェンのエネルギーに歓喜し、ショパンに心を揺さぶられてきたのではないですか?……目に見えない感覚を育てることを追求していくより、音読みや、ワーク・カード・教具を発案し、目に見えるものを提示していく方が断然わかりやすく圧倒的に楽ですが、一旦その流れにのってしまうと、自分たちがいかに芸術とは反対の方向を向いてしまっているか……なかなか気づけないように思います。
卒業生の皆さん!あなたは脳を鍛える為にピアノをやってきたわけではないですよ。芸術のためにピアノをやってきたのですよ。知育のための幼児教室ではなく”芸術”をやりましょう。芸術的思考を育てる場所は、何も専門に進むと決めた方達だけのものではないですよ。音楽と共にのんびり趣味で進んでいく子達の為にも、皆さんのお教室がいつも何かしら芸術の心が動いて、様々な感情が飛び交う体験の場となるよう、いつも応援しています。卒業してもなお、いつでも門は開いていますよ。どんな些細な事でも、遠慮せず勇気を出して質問してくださいね。勿論、卒業生さんでなくとも、いつでもどなたにでも門は大きく開いています。皆で日本中を豊かな音楽で満たしていけたらいいですね!♫





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