さて、今回はホールでの音づくりのお話です。ピアノを弾く方はステージに自分の楽器を持っていけませんから、本番その日その場所で出会った楽器をどう操っていくか…弾いたことのない慣れない楽器をつかうわけですからね、あらためてコレは本当にすごい事ですよね。
出したい音 日々の練習は、自分の部屋やレッスン室などで、響きをどうつくってどんな風に広げていくか…毎日丁寧に音づくりを重ねていらっしゃることと思います。勿論、最終的な音の広がり云々を考える前には、”出したいたった一つの音”を見つけるために、楽譜の奥の奥まで読み込んで、あーでもないこーでもないと試行錯誤を繰り返して、”自分の音楽”をじっくりと創り上げていく時間があります。それを終えたら今度は、その音をどんな風に響かせていこうかと、更にまた月日を重ねて音そのものを作り込んでいきます。ところがいざ本番では、そうやって苦労して手に入れた音を、いつもとまーったく違う慣れない楽器で、いつもの広さの何倍もあるホールで、その時その時飛んでいった響きと相談しながら、リアルタイムに音を生み出していかなければならないのですから、もう本当にほんとうに難しい事ですよね。本番を乗り切るには、“おおらかな柔軟性”も必要なのですね。
表現したい気持ち いつも生徒の皆さんにもお話ししていますが、どの作品も、自分の部屋でコツコツ練習して完成したと思っても、作品は生き物で、その場所その楽器で変わっていくものです。毎回ただただ練習通りに弾くのではなく、沢山のホールに出会い、沢山の楽器に出会い、耳と体で覚えていくしかありません。と言っても、その時々の本番で変われる人、変わらない人、一体何が違うのでしょうか。それはズバリ!「表現した〜いっ!」という気持ちがどのくらいあるか・・・これに尽きます。お家練習で”あーでもない・こーでもない”と考えて練習を重ねているうちに、もしかしたら、根本的な”心のエネルギー”がおいてけぼりになってしまってはいませんか?レッスン室ではできたと思っていたことが、ホールに来るとやっぱり足りない。大勢の中に入ると、やっぱりまだまだ足りない。人間だし、何より本番は緊張しますもんね、時には変な音を出しちゃう時だってありますよね。でもね、決して技術のことだけを言ってるのではないのです。そもそもあなた達自身がその音楽にどのくらい感動しているのか。そして、その音楽を客席の皆さんにどのくらい届けたいと思っているのか……。「伝わる演奏」ができる人の気持ちはどれほど大きなもので、そして自由か……。きっと練習内容だけの話ではないと思うのです。
全ては表現のためのもの 楽譜から何を見つけ、そのためにどんなテクニックを使うのか、深く読み込むことは勿論必須です。でも、そもそも根本的に何がやりたくてその一音を出しているのでしょうか。読み取った音楽を体現する為に、日々沢山の練習を積むことは、それもこれも全ては表現のための手段であって、それそのものがゴールではないですものね。あなた達が楽譜から何を読み取って、そこから何を感じて、何をどのくらい伝えたいと思っているのか。何を歌いあげたくて何を叫びたいのか。自分のこころ発信のエネルギーが相当ないと、聴いてる人には到底伝わる事はないと思います。皆さんが積み重ねている”指の訓練”も”体の訓練”も全ては、あなた自身が創り上げたい音楽のためなのですよね。沢山練習を重ねた人ほど、本番で「練習した通りちゃんと弾かなくちゃ」‥と思うものです。いえいえ、所詮本番の環境はお家やレッスン室とは何から何までまるで違うのですから、いつもと全く同じになんてできなくていいのですよ^ ^。これまで相当やってあるのだから、安心してリアルタイムに自由にのびのび音楽を作ればいいのですよ。
あなたの出したい音はどんな音ですか?あなたの創り上げたい音楽はどんな音楽ですか?どうか練習室に缶詰にならないで、視野の広い、ワクワクするような豊かな学びができますように。
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